おとなになるぞ

頑張らず頑張りたい

FACTORY GIRLS 観劇

ひっさしぶりの、大劇場ミュージカル生観劇。
大学入ってからは大劇場ミュージカルは配信しか観れてなかった気がする。小劇場ミュージカルはちょこちょこ観てたけど…。

やっぱり大劇場ミュージカルってわくわくするね。おっきい劇場にお洒落して行って劇場のドリンク売り場や近くのカフェでクリームソーダ
大劇場ミュージカルってなんかそういう思い出とワンセットになっている。

そしてFACTORY GIRLS めちゃくちゃ良かった。浴びたわ〜。ミュージカル浴びるって感覚分かってもらえるかしら。光や音楽や声の振動や感情の昂りや客席の興奮を浴びるの。泣いてる事を忘れてダダ泣きする。泣くシーンでも何でもないんだけど、迫力や興奮がこっちの涙腺をタコ殴りにしてくる。
興奮し過ぎてパンフ買っちゃったよ。

さて、FACTORY GIRLS。
初演めちゃくちゃ観たかったけれど行けなくて、狂ったようにPVを観ていた私。再演されるとなって嬉しくて嬉しくて。

大劇場ミュージカル(特に古典)に出てくる歌の上手い(つまり主役クラスの)男性はだいたいクズみたいな法則があるけれど、今回の作品にはそもそも主役クラスに男性がいない。
大抵のミュージカルは男女ペアで主役になることが多い。で、だいたい恋愛に発展するしそれが拗れる。当て馬女性の嘆きソングは死ぬ程ある。逆もある。
大劇場古典ミュージカルで女性は大抵酷い目に遭うし、連帯するどころか敵対し合うか孤立するかその両方かって感じだし。女性にとって死は度々救済として描かれてきた。
しかも女性達だけのシーンっつったら出て来るハンサムガイがいかに素敵か女子だけでキャピキャピ語るソングのシーンとか、家事の合間に噂話するソングのシーンか、娼婦たちが妖しくヘルシーに歌い踊るシーンとか、そんくらいじゃないかしら。

そんなミュージカル界の法則ぶん殴ってくれてありがとう。モブ女性までかっこいいとか無かったよね。「かっこいい女性」が登場するミュージカルは沢山あるけれど、この作品は出て来る女性達はみんなかっこいい。「機械のように」でめちゃくちゃ興奮して気付いたら泣いてた。
振りも初演と変わってたけど、なんて言うか歌詞の中にある「考える事は諦めて」「機械のように」働くということが身体に刷り込まれていく様なダンス。気付けば何も考えられなくなっていくみたいな。目の前の仕事しか見えなくなっていくみたいなダンス。自分の体が工場の1部になっていくような。歌声もパワフルなんだけど溢れそうな何かを抑圧していて苦しくなるような感覚を持った。
ただめちゃくちゃかっこよかった。憧れたり混ざりたくは無いし、労働環境改善しろやとは思うのだけど、あのかっこよさ力強さは素敵だった。
社会の歯車ソングと勝手に呼んでるけど、歯車かっこいいじゃんよ。ちゃんと人間扱いしようね。

アメリカの女工哀史って感じの時期の話だと思うのだけど、やっぱりみんな貧しくて搾取されてて、そこから逃げ出したくてとか家族に仕送りしなくちゃとか子ども養わなくちゃとかで働いてる。
他では雇って貰えない。だから雇用が主従の関係になるし使い潰されて捨てられる。

家族からのDVや虐待から逃れていたり、孤児院でしこたま虐められてたり、家族に手術が必要な人がいて働いてたりで、自力で稼げる事に夢を持って働きに来た人達がやはり再搾取されることに対して割と早い段階からラディカルに反発していくサラと、リベラルに変化を及ぼそうとするハリエットの友情が素敵。

最初はサラもハリエットのリベラルなやり方を、
「そんな発想はなかった〜ハリエット賢いわ〜」
みたいな感じで尊敬しているしハリエットも
「サラは素直で魅力的な文章を書く人」
みたいな感じで敬意と共感を持って、いつか何かを変えて行くことを努力しましょうと約束し合う。

の!に!労働環境が更に悪化して、ただでさえ死人が出てるんだぞって状況でこれ以上やれとか殺す気か!と憤るサラの真っ当さたるや。
これは工場に入って日が浅いから言える洗脳されてない人の意見って感じもあったけど、サラは女工たちの中ではだいぶ年長だから
「年下の子たちを守りたい」
みたいな所もあるんだろうな。てか年下の先輩達とめちゃくちゃ仲良くなってるの、サラほんまに良い奴なんやろな。
アビゲイルがサラと共に声を上げて暴れるシーン、結局男性工員の暴力によって制圧されて工場長が、女性達が制圧されてから
「暴力反対」とか言い出すの、笑ってしまった。笑い事じゃないんだけど。

ハリエットは元々工場で女工として働いていたけれど、オーファリングの専任編集長に就任してて文章や講演で世の中の意識を変えていこうとしていた。多分これも工場長とかの
「女性を大切にしてますよ」アピールの一環ではあるんだろうけど、ハリエットは聡明で我慢強く
「女性達も言葉を持っている」
という事を訴えていく。

で、ハリエットが、議員の甥っ子のぼんぼんハンサムガイことベンジャミン(以下、ベン)にいきなりキスされたり求婚されたりするシーンがあって。
古典ミュージカルでは合意のない(意識が無い含む)突然のキスや求婚は、トキメキ要素をもって語られる事が多かったけど今作でははっきりと困惑や拒否感を持って描かれていたので、観客席にいるこちらもベンに対して
「ケーーーーーーッ ペッ 」とか「うわーあかんのにー」
みたいな感情を抑圧せずにいられる。ありがたい。
それを全く理解出来てないベンの
「??だって僕は君が好きだから✨✨」
「君の事はなんでも分かるよだって君の書いた文章は全て読んだからね(出会ってほぼ初日)✨✨」
みたいな描写もほんまにね……はは……ってなったよ。
あの、今までは合意のないキスや求婚に対して
「なんでこんなことするんですか」
っていう問いがなされずに、ロマンスとして描かれて来てたから…そりゃ必然的にその問いに対する答えが無い(無かった)ってのは分かるんだけど、その答えが
「君の事を好きだからっ✨✨」
みたいな感じで出されると、
「ばっかじゃねーの!!!!(劇場で馬鹿を露呈させる勇気)最高!!!!(行動)最低!!!!」
みたいな混乱した感情になってしまうよね。
あぁそうか…好きだから✨で人が話してるのを遮ってキスをする事を許してきていたのか…私…。

話が逸れた。

リベラルに世の中を変えていこうとするハリエットは、女工たちからは「私達の味方じゃないのか」みたいな視線を向けられるし、ベンの叔父議員とか工場長からは「工場側に立って女性達を抑圧なんてしていません的な記事を出し、そう女工たちにも振る舞わせなさい」的なパワハラをガンガンされるし、ベンは一生その苦しみや板挟みの立場を多分理解出来ていないし、自分の家庭にもトラウマあるしで話が進むにつれて孤立し、病んでいく。

ハリエットの「確実に世の中は変わって来てるしもうすぐ女性の色んな権利が認められる様になるから賢く上手く振舞っていこう」
みたいな考え方で、男性からは搾取されて、女工たちからは「味方じゃない」みたいな扱いを受けるのは、まぁ確かにラディカルなやり方だけでは通用しない部分もあるからハリエットみたいなやり方をする人も必要なんやけどそれを1人でやるのはしんどすぎるよ……ってなった。理解者や共感者が居ない中で工場の中みたいな肉体労働では無いけれどガンガン使い潰されるのはしんどすぎるよ。
「それは決してひとりぼっちの旅路じゃない」
って割と序盤にみんなで歌ってたのにね……。

なんとなくやけど、前に亡くならはったFacebookの女性の社長?CEO?そんな感じやなかった……?みたいな、うわぁー地獄!感。

この、「わきまえる女性」と「わきまえない女性」が同じ所を目指しているのに袂を分かたなければならないあるあるが苦しい。

で、このサラとハリエットの対立構造を煽ってるのが結局ハイクラス男性で、はぁ見覚え。って感じ。ちょっとここで疑問なんやけど、ハイクラス男性達って連帯してるの?連帯して抑圧してる描写と、ハイクラス男性同士のマウント構造の描写とあって、仲間意識的なものは無いの?損得オンリー?みたいな。

移民男性達の労働新聞にサラがペンネームで寄稿を始めるシーンも
「女に何書かせんだよ出てけよ」
みたいな台詞があったり、でも移民男性はアメリカ人女性より更に賃金や待遇が悪かったりでやはり戦ってる中に、自分より良い待遇を得ている女性を入れる余裕なんて無かろう…みたいに思ったりもしたり。

ボンボンハンサムガイことベンとの結婚について、ベンの叔父議員はハリエットの家庭環境を引き合いに出して色々脅してくるし、本当にあの叔父議員は優しげな顔して声して話し方して、こう、紳士ですよ〜みたいなの醸し出しながらやってる事ヤクザで本当に嫌い。
実質言わせたやんって言葉を、自発的に言いましたよ脅してませんよ〜みたいなノリ。分かってもらえるかしら。
で、正解してたら機嫌良くなるし外したら脅してくるし、なんや家族にこういう振る舞いする親よくお見かけするなって感じだった。

話が逸れた。

そう、で、サラ達女工とハリエットがすれ違って対立していくところを見るのは辛かった。
ただ、シーンとして、サラ達が複数名で歌って踊っている中を何とか説得しようとハリエットがその中をもがいていくの、シンプルにハリエット1人なのにしっかり両方の声や感情の動きが見て聞けて取れるのはハリエット役のソニンさんのパワーが桁外れっていうのあるなって思った。
コーラスも負けてないというか普通にどすこいっ!って感じなんだけどもハリエットの声もちゃんと分かるのすごいね。劇場も良いのかも知れない。音響悪くて聞き取れない劇場あるもんね。

また話が逸れた。

あとやっぱり、ちょっと気になるな…って思ったのが、女工たちの会話の中で、女工の1人が父親からの性暴力をアウティングされる所。
結局アウティングした子も似たような境遇だったから見抜いていたみたいな描写だったしそのシーンのおかげでアウティングされたいつもいつも顔色悪くて自信なさげな子が
「慰めたりしなくていいから、私を見ていて」
と言えるようになる、という所はあるんだけど、でもそういうのアウティングすんのは……という気持ちにはやっぱりどうしてもなるのよね。

あと、
「惨めすぎる 可愛い少女が 使い潰さて 死ぬなんて」
という繰り返し出てくる歌詞があるんだけど、いや可愛い少女じゃなくても(けったクソ悪いじいさんでも)使い潰されて死んではいかんだろうがって気持ちと、今は女性の労働環境及び社会的地位の話をしているのだからこの歌詞で良いという気持ちとで揺れてしまう。
これは私がどの立場に身を置くかで完全に見方が変わってしまうなとは思う。
でもあえて「可愛い」少女と言わなくても良くね?みたいな、この場合の可愛いはルッキズム的な意味合いを含んでないのは分かるんだけど、ちょっと引っかかった。

似たような感覚になった所は結構あって、女性の苦しみを訴えるシーンや男性がそれを退けるシーンで
「これでは男性 対 女性にならないか?男性にもう少し作中で発言権があっても良いのでは?」
という気持ちと
「今は女性の労働環境及び社会的地位の話をしているのだから、男性が話すターンでは無いのだ。いつでも発言権を与えて貰えると思うな、聞け。」
という気持ちとで揺れた。

あとこれ言っちゃうとマジでおしまいなんだけど、作詞作曲、脚本、演出が男性だけなんだよ。
現場の権力勾配がどうなってたかは分からんけど、決定権が男性にあってそれに女性達と少ない男性達が従うっていう構図がこの作品やる上でどうなんやろな〜って気持ちにはなった。
こればっかりはどうしょうもないねんけど、うーん…ってなった。

ただまぁ、決定権がある人だけで創るもんじゃないのは分かってるし、この作品の決定権を男性が握っててやっていけるわけ?みたいなあれでもなくて。

でも作品自体がはちゃめちゃに素晴らしくて最高やったし、もっと再演されて欲しいなって思うからこそ、ちょっとそこ気にはなった。監修とか付けても良いのでは……。

とはいえ本当にめちゃくちゃ良かった。ナイスな描写でガッツポーズ出たシーンが沢山あって(良いシーンと言うより、よく描いた!みたいなシーン)とっても勇気も感じた。
ベンが嫌味なくハリエットを一方的に好きになって勝手にリード(というか一歩間違えたら支配)したり勝手に支えたり(出来てないけど)しようとして、客席に居る私から死ぬ程反感を買ってるの、ナイス描写だしナイス演技だと思った。
いや、ベンが先進的で優しい人(男女や人種を超えて平等にすべきと訴えて議員を目指している)なのは重々承知なのだけど人の話さえぎってキスするとかそういう所が……。

あと曲がめちゃくちゃ良い……ダンスもめちゃくちゃ良い……ばり浴びるよ……。全身浴って感じよ……。ボッコボコにされる……。最高……。
いきなり語彙力失った。
うん、でも本当にどの曲もダンスもめちゃくちゃ良かった。

あとちょこちょこ挟まれるコミカルなシーンやアドリブがちゃんと面白かった笑

あと、ルーシー役の清水くるみさんと、オールドルーシー役の春風ひとみさんが、ちゃんと同一人物に見えたの凄かった!あぁ、このルーシーが年老いてこうなったのねって自然に分かるの凄かった。
春風ひとみさんは、ルーシーのお母さんの役と、オールドルーシー役の兼任をされているんだけど、演じ分けが本当に見事だった。

客席も最後は総スタンディングオベーションで、すげえ盛り上がったし興奮した。
サクッとハッピーエンドじゃないのもね。分かってらっしゃる。はい、私も気を引き締めますって感じ。

たーーーーのしかったーーーーーー。